実家のある大阪・Ｍでは 毎月3のつく日に夜店があった
食べ物系の店が仕込みをし
古本や陶器の店はござの上に品だししている
「まだや もうちょっとや」と
日暮になると自宅と店の並ぶ通りを
何度も往復した
夜店の日はいつもより早めに銭湯にいき 夕食もすませ
8時頃から 母と出かけた
まず 猫間川筋のほうにぶらぶら歩く
商店街と交差しているあたりで露店は終わりになるので
戻りながら 途中にある「いかるが牛乳店」に入る
当時 牛乳は家庭配達だけなので
店の中は 広い土間に 大きな冷蔵庫があり
丸いすがならんでいるだけの殺風景なものだった
「ちょっとコーヒー牛乳2本ちょうだい」
その丸いすに腰掛けて コーヒー牛乳を飲む
冷たくて甘くて 夜店の熱気をひやしてくれる特別の味
母と一緒でなければ飲めない代物
夜店も楽しみなのだが 小学生の私にはこのコーヒー牛乳が楽しみだった
「ごちそうさん」と空き瓶をテーブルにおいて店を出る
残り半分の夜店歩きがはじまる
夏には 鈴虫売りやまわりとうろうの店が出る
蛍も 夜店で見たのだった
何を買うでもなく 母とぶらぶら歩く
母は職業婦人なので 普段はこんなに長く一緒に歩くことがない
夜店でも 「せんせい！」と教え子がとんでくる
「いやぁ ○○クン なに買ったの？」
母の笑顔が嫌だった
「せんせ みてみて！！」
親しげにまとわりつく生徒が嫌だった
母をとられるようで哀しかった
私が必ず買うのが「木の葉せんべい」
白髪のおじいさんが 小さな木の葉を炭火の上で焼くのだ
たぶん うすいおかき？
焼けてふくれると おはしでそのふくらみを押さえて伸ばす
真っ赤な炭火こんろの網の上で
おじいさんの軍手をはめた手が優雅に舞う
ふくれたおかきを 金物のおはしで 押さえて伸ばして
おじいさんはもくもくとその作業をくりかえし
ちいさなおかきは 子供の顔ほどある木の葉のかたちになっていく
手品のようだった
あのおじいさんのあの技はすごかった
木の葉のおかきをぱりっと噛む
口の中に入った途端 ふわぁと舌の上でとけていく
ぱりっとふわぁ
おじいさん同様上品な味だった
冬場だとそのおじいさんの横には「関東煮」（かんとだき）の店が出た
ちくわとじゃがいも 私が食べるのは決まっていた
木の葉おかきを食べ終わるころ
古本の店にたどりつく
その手前に バナナの叩き売りがある
「もってけどろぼー」と威勢良くまくし立てる元気なおじちゃんだった
古本の店は
難しい漢字だらけの本や きれいな女優さんの表紙の雑誌
普段みることのないような本がたくさん並んでいて
「大人の世界」
あれこれ 捜すのが楽しかった
チャキリスの特集号をみつけたのも夜店のこの店
私がリバイバル上映のウエストサイド物語で彼にハマッた時には
もうすでにブームは終わっていたので
私にはとても貴重な本だった
最後に立ちよるのが 瀬戸物の店
裸電球の下に 様々な形の食器がならんでいた
母も時々小皿などを買っていたような気がする
もうこのあたりになると 眠気も出てきて
あまり記憶がない
というか自分の興味のないものだったから（笑）
中学生くらいになると
一度帰ってから また店じまいころにでかけた
ほとんどの店が
残ったものを値下げして売ったりするのだ
何に使うのか分からないような生地を買ったことがある
安くなった！ その満足感で買ったんだろうなぁ
なんだか 今とかわらない（笑）
雀百まで踊り忘れず 三つ子の魂百まで・・・
結婚して子どもが生まれると ３のつく日に里帰りした
子どもたちは大喜びで
今度は私が案内役だった
いつの頃からか 車の往来が激しくなり
店の数も減っていった
父が死んで母が兄の家に 引っ越して・・
Ｍの夜店と無縁になって20年以上たつ
今でも夜店はあるのだろうか
いつか行ってみたいと思いながら
母も死んで 実家も処分して
Ｍは遠い場所になってしまった
駅の売店で ビン入りのコーヒー牛乳を飲んでみる
あの頃に比べると
私の舌もぜいたくになってしまったが
やはり 美味しい
子供の頃の食べ物って
思い出と一緒に美味しいのかもしれない
今でも コーヒー牛乳は特別な味がする
阪神巨人戦 たそがれの君 みかんとバナナ たま